かつて、炭鉱には「スカブラ」と呼ばれる人たちがいた。
「スカッとしてブラブラしている人」の略だという説がある。
みんな一生懸命に炭鉱で働いているのだが、100人のうち5人ぐらいは、何をするでもなく機嫌の良さそうな風情でブラブラとそのへんを歩いている。
それで同じ給料をもらっているのだから怒られそうなものだが、誰も文句は言わない。
スカブラの人たちは「平時」は何もしないけれど、いざ事故やトラブルなどが発生するとすぐに駆けつけてみんなを助けてくれるからだ。
アリなどの集団でも同様で、観察すると実際には働いていないアリが一定の比率でいるそうだ。
しかし、常に100パーセントのアリが働いている状態だと、何かが起きたときに余力がなく集団全体が滅びてしまう。
今の社会や企業でも、「スカブラ」的な人たちを抱えることは、その集団全体を強くすることになると思う。
何をやっているのか誰が見てもわかる人たちだけではなく、何をやっているのかよくわからない非真面目路線の人たちの存在も許容するのだ。
そういう妄想型の人材も評価される世の中にならなければ、今の社会を覆う悲壮感は消えないし、イノベーションを生む土壌も育たない。
イノベーションにつながる妄想は、世界中のいろいろなところで多くの人たちが抱いている。
まったく異なる分野で、同じようなアイデアを考えている人間もいる。
これは地下でグラグラと煮立っているマグマみたいなものだ。
マグマがどこから噴き出すかわからないのと同じように、それらのアイデアのどれが「世界初」のイノベーションとして噴き出すかは誰にもわからない。
ノーベル賞をとった研究者や発明家の多くも、たまたまある種の偶然がマグマの噴き出し口としてその人を選んだだけだと考えることもできる。
だから、「選択と集中」でその噴き出し口を狙い撃ちするのはきわめて難しい。
多様な妄想を許容して手を広げられるだけ広げておき、マグマが噴出する可能性を高めておくのが、イノベーションを起こすための正しい道だろう。
また、「自分のやりたいことが見つからない」という人も、自分自身の中の「スカブラ」を探してみるといい。
課題を与えられないと何も考えられないと思っている人でも、どこかにスカブラが隠れているものだ。
何の意味があるかわからない妄想をまったく抱えていない人間は、たぶんひとりもいない。
自分の妄想を直視しよう。
そして大切にしよう。
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所長視点
「スカブラ」とは九州に炭鉱があった頃の話だそうです・
炭鉱夫は危険と隣り合わせで、緊張の連続で、異常にストレスがたまるなかで、スカブラは石炭を掘らず、炭鉱夫たちにお茶を出したり、おもしろい話やバカ話でみんなを笑わせて息抜きをさせるのが役目だったそうだ。
しかし、炭鉱の経営が苦しくなると「スカブラ」は真っ先に切られ、その結果、士気が落ちて、生産性は落ちてしまったそうです。
ゆとりが生み出すパワーも侮れませんね
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